めだか第一研究所

ゆるふわ嗜好×ゆるふわ思考×ゆるふわ試行

人生は無理ゲーだ/読書猿『アイデア大全』『問題解決大全』の書評

どうにも仕事が行き詰まったので、以前オススメされた本を、藁にもすがる思いでポチってみた。

アイデア大全

アイデア大全

問題解決大全

問題解決大全

結論から言えば、起死回生のアイデアは浮かばないし、問題は何ひとつ解決しなかったけれど、それでも貴重な休日を費やすに余りある二冊だった。自分も同じタイプだから言えるのだが、本書はアイデアや問題解決のノウハウ本を苦手としてきた人にこそ読んでほしい。そんな思いから、再び仕事を放り投げて書評をしたためることにした。繰り返すが問題は一切解決していない。

さて、世間にアイデアや問題解決のノウハウ本は星の数ほどあるけれど、それらピカピカ輝く成功者の叡智はあまりにも眩しい。そうした創造的で論理的な思考のフレームワークは、残念ながら凡俗な脳ミソ・薄汚れた身体・怠惰な精神の三つを兼ね備えた僕には一切定着せず、ただ夜空を見上げてヨダレを垂らすほかないのだった。

しかし世の中には凄い人もいるもので、本書の著者である読書猿さんは、その膨大な知識と類まれなる知性で無数の星々を体系化し、なんと「プラネタリウム」を作ってしまったのだ。それはまさに「大全」と呼ぶに相応しく、アイデア編は335ページ(42トピック)、問題解決編412ページ(37トピック)と、二冊合計で700ページ超の大著である。しかも単なるノウハウの列挙ではなく、縦横無尽な学術的背景をもとに書かれている。その濃度たるや凄まじく、当然ながら一日で理解しきれる質と量ではない。

ので、あえて、ぼくは本書を一日で読み切った。もちろん二冊とも。

無理ゲーだからだ。

一つの星の光すら手に入れられない者が、宇宙をその手に掴むなど、夢のまた夢。

だけど良いニュースが一つだけある。それは、本書が宇宙じゃなくて「プラネタリウム」だってことだ。まさしく"スター"である個別の経典とは異なり、工業製品であるプラネタリウムでは、全ての輝かしいメソッドは分析され解体され再配置されている。まるで自分の好みの洋服を選ぶみたいに、ダメな服はポイッと捨てて、あるいは最初から目もくれず、頭にピンとくるモノだけを見つけることができる。

この"ピン"という感覚は様々で、自分が既に実践している思考法の再発見かもしれないし、まだ構造化できていない具体例に光が当たる感覚かもしれないし、単純に目新しさで試してみたいだけかもしれない。ただなんにせよ、こうした頭や意識に馴染むものを「選べる」ことの素晴らしさは、あえて語るまでもないだろう。

というわけで、ちょっと視点を変えて、馴染まないものを「選ばない」で済むことに目を向けてみよう。それこそが、アイデアや問題解決のノウハウ本が苦手な人にこそ、本書をオススメする理由なのだ。が、一つ謝罪しなければならないことがある。

冒頭で「夜空を見上げてヨダレを垂らしていた」と書いたけど、アレは嘘だ。

ぼくはずっと、足元を見つめていた。衝動的で飽きやすく、それゆえにアカデミアの道を諦めるほど網羅性に興味がなく、ロジカルシンキングは吐き気がするほど苦手。だから世に蔓延る問題解決メソッドは、いかに自分がダメ人間かを写し出す鏡でしかなかった。そんなモノを直視できるわけがないのに、たまに気の迷いで買ってみて、何一つ得られず本棚に戻す。

だけど、メソッド自体が宇宙の構成要素の一つに相対化されたことで、鏡が突きつける現実もまた、相対化されたのだ。あのクソ鏡野郎がシンデレラだって答えるのなら、こちらはAlexaを搭載したIoTミラーに訊けばいい。相対化は最大公約数のゼロへの漸近じゃないんだから、胸を張ってバックれればいい。

人生は無理ゲーだ。環境や他人だけではなく、自分の認識や意識すらもままならない。だけど、そんな宇宙から素粒子まで規定された世界であっても、きっと未来は実存と意思の”均衡点”にあるのだと信じたい。本書はそんな不条理な世界にあって、多少なりともマシな均衡に至る”可能性を高める”ために生きてきた、矮小にして偉大な人類の(記されていないもの、そもそも実現しなかったもの、それらを含んだ意味で)投企の歴史なのかもしれない。

問題は一切解決していないけど、私はげんきです。