ゆるふわ髄想録

ゆるふわ嗜好×ゆるふわ思考×ゆるふわ試行

不定期コラム「転詞(こけ-ことば)」はじめます。

生まれながらに語彙力をもつ人間はいない。だから貴方と言葉はアカの他人のはずなのだけど、一言でも身体や心を重ねてしまえば、もはや言葉から逃れることはできない。死がふたりを分かつまで、言葉は貴方と共に人生を走り続ける。

でも言葉は、たまに貴方を追い越す。ふとした瞬間、電車でダベる高校生の口の中に、優秀な部下のレポートの中に、久しぶりに見るバラエティー番組の中に、貴方は見覚えのない背中を見つける。

そりゃ結婚どころか一緒に走る約束すらしていないけど、ほぼ事実婚みたいなもんだったじゃないか。貴方はなんだか寂しい。

だけど貴方もまた、言葉を置き去りにしてきたのだ。足を止めて振り返れば、無数の老いぼれた記号が見えるだろう。意味どころか読み方すら分からない記号。言葉ではない。だって貴方が認識できる古い言葉は、全て貴方と共にあるのだから。

貴方は走り続けていて、時間は未来に向けて流れていて、だから新しく生まれた言葉に追い抜かれて、古い言葉を置き去りにしていく。それはとても自然なことで、あえて書くほどのことはない。新しい言葉を追いかけてもいいし、古い言葉に寄り添ってもいいし、もちろんただ移ろいに身を任せていてもいい。貴方がどの道を選ぼうと、言葉は付かず離れずそこにある。

ぼくが好きなのは、そんな言葉が「転ぶ」瞬間だ。かつては正しく社会と紐付いていて、なんとなく一緒に走り続けていた言葉が、あるとき突然に消えてしまう、その一瞬がたまらなく面白い。

そんなわけで、不定期コラム「転詞(こけ-ことば)」はじめます。