宇宙逃避航海日誌

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三島芳治の実験場/『レストー夫人』における「レストー夫人の劇」の考察

引っ越しのため部屋を整理していたら、三島芳治の『レストー夫人』を見つけたので読み返してみた。

レストー夫人 (ヤングジャンプコミックス)

レストー夫人 (ヤングジャンプコミックス)

僕は三島作品の魅力は「掴みどころがない」点にあると思っている。

もちろん細かく見ていけば、シンプルな線でありながら魅力的なキャラクター造形、切り口が独特すぎるSF要素、詩的な言語センスなど様々な要素に分解できるだろう。しかし、月並みな言い方だが、それらのパーツの集合がイコール三島作品ではない。そうした言葉で語ることによって抜け落ちてしまう、柔らかく繊細な雰囲気(に隠されたエッジ)こそが三島作品の魅力である。

何作かは無料で読めるので、ぜひ読んでみてほしい。掴みどころがないが、何かが心に残る。そんな作品ばかりである。

mavo.takekuma.jp

そんな三島先生の(おそらく)商業デビュー作が『レストー夫人』だ。以下、本作の概要を簡単に紹介し、「レストー夫人の劇とは何だったのか」というテーマで感想を述べる。

 

本作の概要

本作はオムニバス形式の作品であり、レストー夫人役の女の子・志野を中心に、全四話のストーリーが描かれている。

そして、今日も、劇は続く。
その学校では、毎年二年生が「レストー夫人」という演劇をする。しかも7つのクラスで同じ劇を違う台本にして、7種類の「レストー夫人」を上演するのだ。ヒロイン役のエキセントリックな少女を中心に、今日も舞台の準備は進む。それぞれの屈託を抱えた生徒たちひとりひとりの物語は、はたしてどんな劇に収束するのか……?
レストー夫人 |集英社マンガネット S-MANGA.net

各話の登場人物は、全員が「ひとクセある普通の女の子(第四幕は男の子)」である。第一幕「記録係」では志野の様子をノートに記録し続ける女の子(スズキ:記録係)、第二幕「デルフィーヌ」では世界に十字の目盛りが見える女の子(川名:デルフィーヌ)、第三幕「アキリノとユーフラシー」では全く喋らない女の子(鈴森:ユーフラシー)と腹話術が得意な女の子(アキリノ:井上)、第四幕「衣装係」では志野の衣装を作る模型好きの男の子(石上:衣装係)が登場する。そんな少し変わった彼女たちの思春期を、劇の練習風景という舞台を用いて、独特なタッチで切り取ったのが本作である。

一冊で完結するので買って読もう。なお、次節の感想は本編を読んだ前提で書いている。したがって未読では意味が分からない。ゆえに買って読むべきである。

 

レストー夫人の劇とは何だったのか?

物語の冒頭、記録係のスズキさんは、レストー夫人の劇を「なにかの実験なのかもしれない」と称している。

この学校では毎年二年生が「レストー夫人」という演劇をする/7つのクラスで同じ劇を違う台本にし/7種類の「レストー夫人」を上演する
なにかの実験なのかもしれない
スズキ/【第一幕】記録係(p.7)

しかし、物語の最後では、それが「なにかの試験だったのかもしれない」に変化している。

この学校では毎年同じ劇が上演される/みんななにかの役になって/終わるとまた元の役に戻る/それは毎年繰り返される
なにかの試験だったのかもしれない
スズキ/【第四幕】衣装係(p.140)

この変化は何を意味しているのだろうか。

僕は作者の『レストー夫人』という作品に対するスタンスの変化ではないかと思った。

というのは、初読時には気づいていなかったのだが、この四幕目は本書の書き下ろしなのである*1。どういうことかと調べてみると、本作が掲載されていたアオハルオンラインは第三幕の公開後に更新が終了していたのだ(H25年12月27日)*2

本来であれば本作は三幕以降も続く予定だったのだろう。

それが正しいのであれば、『レストー夫人』という"漫画"は、作者が自分で描きたいキャラや物語を描いて、それが一本の物語として(あるいは商業的に)成立するかという実験だったんじゃないかと思うのだ。その実験のための舞台が、無限にオムニバス形式の物語を紡ぐことのできる、「レストー夫人」という劇の練習風景だったのではないだろうか。

本作の最後のページには、「試験だったのかもしれない」という台詞とともに、読者に背を向けて廊下の奥へと歩き去る志野の姿が描かれている。普段から劇の中の女の子のような言葉で会話する女の子は、舞台の幕が降りた後、どのような役に戻るのだろうか。

いろんな女の子の寄せ集めの模型なんてなかった
そう思い込んでる変な女の子が一人いただけだよ
石上/【第四幕】衣装係(p.140)

それでも僕は三島先生の描く「ひとクセある普通の女の子」の「普通の話」が好きなのだ。生き残ることが「試験」の結果に左右される世界で、それを期待することは身勝手極まりないのだろうけど、またいつの日か、三島先生の「実験」を読みたいと思った。

*1:各話の初出は、第一幕が週間ヤングジャンプ増刊「アオハル」(H25年9月20日号)、第二幕と第三幕がアオハルオンライン(H25年11月8日、12月6日)、第四幕が書き下ろしである。

*2:https://twitter.com/aoharu_yj/status/416505494279159809